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軌道分解NMR

隠れた自由度である軌道角運動量をNMRを駆使して詳細に調べることで、強相関電子系のハイライトであるモット転移近傍に現れる特有の現象を解明しています。その中でも特に興味深い物質について紹介します。

擬スピン-クロスオーバー

 軌道自由度のある遷移金属酸化物においては、電子間クーロン相互作用に加えて、スピン軌道相互作用、フント結合、結晶場などの競合によって、多彩な基底状態や相転移現象が現れます。その代表例が、スピンクロスオーバーとよばれる、スピン-軌道状態の連続転移です。私たちはその微視的な機構の解明に長年取り組んできました。
 電子軌道の観測手段としては、これまで共鳴X線散乱や放射光など限られた測定方法しかありませんでしたが、詳細な軌道分解NMRの開発よって軌道状態を精密に調べる道が開けました。その結果、スピンクロスオーバーに伴う高スピンと低スピン密度の温度変化や低エネルギーのダイナミクスについて明らかになりました(図)[1]。

原子サイトに依存した金属絶縁体転移

 d電子系は、軌道自由度があるため、格子系との結合によってさまざまな相転移を起します。特に、基底状態の縮重したフラストレーション系では、予想できない相転移が起こります。例えば、V6O13という物質は、古くから金属絶縁体転移系として知られていましたが、その微視的な起源は未解明でした。私たちは、サイト選択性のある軌道分解NMR実験を詳細に行い、電荷、軌道、スピンが示す秩序構造の全貌を明らかにすることで、パイエルス転移とモット転移がサイトごとに起きることを示しました [2]。

三角格子上の軌道秩序

 軌道自由度のない二次元三角格子スピン系の基底状態は、120度構造が最も安定ですが、軌道自由度のあるd2(S = 1)の系では、フェリ磁性が安定になります。しかし、実際の物質では、スピン-格子相互作用や結晶場歪によって、様々な基底状態が縮退します。LiVO2では、金属絶縁体転移を伴い、非磁性状態が基底状態となります。
 精密な単結晶NMRを行った結果、500Kの金属絶縁体転移を挟んで、三方晶歪から面内三回対称性のある軌道状態へ再構成されていることを見出しました [3]。これは、分子軌道的なバナジウム三量体形成を示唆します。

遍歴電子と量子スピン液体の共存

 スピネル酸化物のLiV2O4は、巨大な有効質量の伝導電子をもつ金属として有名な物質です。その起源として、数多くの理論が提案されてきました。良質の単結晶試料を用いて軌道分解NMRを行った結果、極低温まで秩序しない局在的なスピンの存在を突き止めました。これは軌道依存量子液体とも呼ぶべき状態が実現していることを示唆します[4]。


  1. Symmetry Preservation and Critical Fluctuations in a Pseudospin Crossover Perovskite LaCoO3
    Y. Shimizu, T. Takahashi, S. Yamada, A. Shimokata, T. Jin-no, M. Itoh
    Physical Review Letters 119, 267203/1-6 (2017).

  2. Site-Selective Mott Transition in a Quasi-One-Dimensional Vanadate V6O13
    Y. Shimizu, S. Aoyama, T. Jin-no, M. Itoh, Y. Ueda
    Physical Review Letters 114, 166403 (2015).

  3. Orbital reformation with vanadium trimerization in d2 triangular lattice LiVO2 revealed by 51V NMR,
    T. Jin-no, Y. Shimizu, M. Itoh, S. Niitaka, H. Takagi,
    Phys. Rev. B 87, 075135 (2013).

  4. An orbital-selective spin liquid in the frustrated heavy fermion spinel LiV2O4,
    Y. Shimizu, H. Takeda, M. Itoh, S. Niitaka, H. Takagi,
    Nature Communications 3, 981 (2012).

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