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ディラック系・励起子凝縮

励起子絶縁体

励起子について
 価電子バンドと伝導バンドのエネルギーギャップの小さい半導体やそれらの重なりが小さい半金属では、電子とホールの間の引力クーロン相互作用で対形成する。この対を励起子と呼び、超伝導電子対を形成と同様に、励起子凝縮という巨視的量子状態の形成すると考えられている。半導体中の電子に光によりエネルギーを与え、ホールを形成させた時の電子とホールの共存から、その寿命は短いものであるが、励起子形成の可能性が議論されてきた。バルク物質において、自発的に電子系が励起子凝縮を取ると考えられ、いくつかの系でその可能性が調べられてきた。[図 (a)参照]

励起子絶縁体候補物質の研究
 最近、一次元導体Ta2NiSe5がTS = 328 K以下で励起子凝縮を起こす可能性が指摘されている。我々は77Se核のNMRを用いてその電子状態を微視的に調べてきた [1]。

Ta2NiSe5では、静的磁化率を示す77Se核のナイトシフトの温度変化から、励起子凝縮状態で期待される反磁性軌道磁化率について調べた。また、動的磁化率を示す核磁気緩和率1/T1の温度変化から、TS以下の電子状態が励起子凝縮状態で理解できる。その根拠となるのは、超伝導状態の対称性と同様、TS直下で核磁気緩和率に期待されるコヒーレンスピークの出現である。

図(b)は、理論的に予想された温度(T)とエネルギーギャップ(EG)に依存した相図の概略図で、T > TSでのプリフォームド励起子状態の出現は強い電子とホールの相互作用の存在を示すと考えられている。現在、プリフォームド励起子状態と期待される物性変化が得られており、理論との整合性を検討している。

TiSe2に対しては、77Se核のナイトシフトKnight Shiftと核磁気緩和率1/T1の異方性を組み合わせて、スピン磁化率と軌道磁化率を分離させ、この系で大きな異方的反磁性軌道磁化率がTS~200 K以下に出現することを明らかにした。


本研究のポイント
状態相図上の様々な相を移り変えることのできるパラメーターとして、物理的な圧力の印加や元素置換といった物質内部パラメーターの変更がある。これらは、電子系のキャリア数やバンド幅を変えて、その電子状態の変化させることできる。基底状態の変化を実験的に捕え、パラメーター変化のもたらす効果を調べ、その電子状態の本質を探ることは、固体物理の研究手法の一つである。ここでは、圧力で電子状態の変更を行っている。

  • Magnetic excitation and local magnetic susceptibility of the excitonic insulator Ta2NiSe5 investigated by 77Se NMR
    S. Li, S. Kawai, Y. Kobayashi, M. Itoh
    Physical Review B 97, 165127/1-9 (2018).


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